球数制限の導入でカット打法が再び脚光を浴びて流行るのか?
過去の高校野球でカット打法が禁止された事例をご紹介!
新潟高野連が球数制限導入を決定し、再びカット打法の是非が問われることが予想されます。
カット打法はチームとしての作戦のひとつではありますが、球数制限導入でいわゆる「ピッチャー潰し」とネガティブに捉えられることがあります。
そこで今回は、
- 球数制限導入でカット打法は流行らない!
- 賛否両論あった過去の甲子園での「カット打法禁止」事例
- 千葉くんのカット打法に対するプロの見解【ポジティブ・ネガティブ】
- 球数制限は投手寿命を延ばすという面ではメリットか!【夏の甲子園投球数ランキング】
- 球数制限導入のデメリットは強豪校と弱小校の格差が顕著になることか?
- MLBのガイドライン「ピッチ・スマート」とは?
について見ていきます。

球数制限導入でカット打法は流行らない!
球数制限の導入により「ピッチャーにより多くの球を投げさせる」ということが今まで以上に意識されるだろう、と予想されます。
その目的を果たすべく「カット打法」を試みることもあるでしょう。
ただし「カット打法が流行るかどうか?」ということに対し、流行るというまで積極的に採り入れられるとは考えられない、というのが結論です。
カット打法にはどうしてもネガティブな側面がつきまといます。
- 好投手を早くマウンドから降ろしたいだけ
- ファウルを打つための練習ばかりしている
- 観る側はつまらない
試合を観ている人はファウルばかりのシーンを見ることを望んでいるでしょうか?
試合をしている当事者にとってはもちろんチームの勝利が最優先です。
しかし、ネガティブな意見が出ると選手はプレーしにくくてとまどうでしょう。
高校野球は「ハツラツとした全力プレー」が魅力でもあります。
投手に多くの球を投げさせることを目的としたカット打法は、高校野球の魅力を削ぐものとも言えます。
勝利をつかむためとはいえ、観ていて不快感を感じる人が少なからずいるのです。
球数制限というルールに乗じ、球数を投げさせることだけが目的のカット打法だとしたら、カット打法は批判を浴びることが容易に想像できます。
そして、実は過去の甲子園大会で事実上「カット打法を禁止する」とした事例があったのです。
賛否両論あった過去の甲子園での「カット打法禁止」事例

高校野球における特別ルールのひとつ「高校野球特別規則・17」にこんな規定があります。
「バントとはバットをスイングしないで内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルするような、いわゆるカット打法は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある」
この規定の適用を審判がはっきりと告げたことが過去にありました。
それは2013年の夏の甲子園の準決勝。
花巻東高校の千葉くんは、
「ファウルで粘って出塁するのが自分の役目」
と準決勝までの試合では結果的に相手投手に多くの球を投げさせていました。
準々決勝で対戦した鳴門高校の板東投手には、なんとトータルで41球も千葉くんひとりで投げさせたのです!
千葉くんはバントの構えからバスターエンドランのようにバットを持ち直してカットする、という技術を見せたシーンがありました。
そこで先ほど紹介した規定の中にある「審判員がバントと判断する場合がある」という条文。
審判団が花巻東高校にはっきりとこう告げました。
「千葉選手が相手の投手に球数を投げさせる狙いでカット打法を続けた場合、審判員の判断でバントとみなされ、スリーバント失敗で三振となる場合もある」
これによって千葉くんは準決勝ではカット打法を封印。
花巻東高校は準決勝で破れました。
千葉くんは、
「自分の役目を止められた、悔しい」
とコメントしています。
千葉くんは「ピッチャーを潰してやろう」という意図を持ってカット打法に取り組んでいたわけではないことがわかります。
しかし「バントとみなして三振となる場合がある」という先の条文の存在を伝えて、暗にカット打法をやめさせた、ともとらえることができるんですね。
この時には高校野球において球数制限はありませんでした。
しかし、当然ながら千葉くんのカット打法については賛否両論さまざまな意見があり、高野連には千葉くんを擁護する抗議の電話が多くあったそうです。
プロ球界の方も含めて、この時の千葉くんのカット打法はどのようにとらえられたのでしょうか?
次に千葉くんのカット打法に対するポジティブな意見、ネガティブな意見を見ていきます。
千葉くんのカット打法に対するプロの見解【ポジティブ・ネガティブ】
まず、千葉くんのカット打法に対して擁護している側(ポジティブ)の意見から見ていきましょう。
ポジティブな見解
元巨人の川相昌弘さんは、
「バットに当てようとしても、当てられない選手はいくらでもいる。あれも技術だと思うけどね。準決勝の前になって指摘するというのもいかがなものか」
と千葉くんのカット打法を「高い技術」と評価。
最初からカット打法を指摘していなかったことに疑問を投げかけてますね。
川相昌弘さんは「プロのああいうのがいてもいい、ほしい」と、千葉くんを評価していました。
巨人の阿部慎之助選手の父・阿部東司さんは、
「千葉君は構えているときは両手が離れているが、振る瞬間はしっかりくっつけて打っていた。かつての近藤和彦さん(元大洋)の“てんびん打法”に似た形。問題はないし、むしろ高い技術だと感心して見ていました」
と、こちらも千葉くんのカット打法を「高い技術」と評価。
高校野球ではなかなかお目にかかれないシーンということもあり、むしろ感心してたんですね。
次にネガティブな見解を見ていきます。
ネガティブな見解
現阪神コーチの高代延博さんは、
「厳しい言い方をするようだが、スキをつく野球と汚い野球というものは似て非なるもの。もし、大リーグでああいうプレーをすれば、間違いなく相手にぶつけられるでしょう。つまり野球とは、ある意味、正々堂々とした技術の交換の場であるべきなんです」
こちらは千葉くんのカット打法を「汚い野球」ととらえた厳しい見解です。
ただ私は高代さんがおっしゃっている「野球とは、ある意味、正々堂々とした技術の交換の場であるべき」という意見には大賛成です。
カット打法が「正々堂々としているのかしていないのか」については、また見解が分かれて議論になるところですよね…
高代さんのようにネガティブにとらえていることを堂々と発信することは、球数制限やカット打法が「本来あるべき姿」に近づく貴重な見解だと感じます。
ここまではカット打法に重きをおいてお話してきました。
次に球数制限についてもっと深く見ていきます。
球数制限は投手寿命を延ばすという面ではメリットか!【夏の甲子園投球数ランキング】

球数制限導入によって「投手寿命が延びる」可能性があるという面にメリットがあります。
過去には「1人のエース」で夏の甲子園で勝ち進んだチームもありました。
面白いデータとして、夏の甲子園での”投球数ランキング”を下記にご紹介します。
№ | 投球数 | 名前 | 高校名 | 試合数 | 年度 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 948 | 斎藤 佑樹 | 早稲田実 | 7 | 2006 |
2 | 878 | 吉田 輝星 | 金足農 | 6 | 2018 |
3 | 820 | 川口 知哉 | 平安 | 6 | 1997 |
4 | 814 | 今井 重太朗 | 三重 | 6 | 2014 |
5 | 783 | 島袋 洋奨 | 興南 | 6 | 2010 |
6 | 773 | 大野 倫 | 沖縄水産 | 6 | 1990 |
7 | 767 | 松坂 大輔 | 横浜 | 6 | 1998 |
8 | 766 | 吉永 健太朗 | 日大三 | 6 | 2011 |
9 | 742 | 福岡 真一郎 | 樟南 | 5 | 1994 |
10 | 713 | 古岡 基紀 | 京都成章 | 6 | 1998 |
2週間ほどの大会期間中に700球と超える投球数…
中には大会後に故障した投手もいます。
もちろんこの大会が原因で投手としての寿命が縮まったとは言い切れない部分もあります。
ただ、少なからず投球過多による腕への負担はあったはずです。
投げ過ぎによって目標としていたプロへの道を閉ざされた、となると何よりも本人が残念がることでしょう。
球数制限導入は、
- 投手のケガを未然に防ぐ
- 投手としての寿命を延ばす
というメリットはあります。
それでは逆に球数制限導入によるデメリットは何なのでしょうか?
球数制限導入のデメリットは強豪校と弱小校の格差が顕著になることか?

球数制限導入のデメリットのひとつとして「強豪校と弱小校との格差が顕著になること」が考えられます。
昨今の高校野球の強豪校の特徴として、
「同等レベルかそれに近い実力を持った投手が複数人いる」
ということが挙げられます。
球数制限が導入されたとしたら、実力が高い投手が複数人いることは間違いなく有利に働きます。
しかし、どのチームもこのようなことができるわけではありません。
一人の力のあるピッチャーに頼らざるを得ないチームもあるでしょう。
中にはピッチャーが一人しかいない、といったチームもあるはずです。
力のあるピッチャーが一人のチームと対戦するチームは、できるだけピッチャーに球数を投げさせることを作戦のひとつとするはずです。
もし早い回にエースピッチャーの球数が制限の投球数に達してしまった場合…
それ以降に投げるピッチャーがめった打ちにあって試合自体がワンサイドでつまらなくなるケースが考えられます。
甲子園の大会などではコールドゲーム制がないため、大味な試合になって思いもよらぬ大差がついてしまうことも想定されますね。
また、ピッチャーに球数を投げさせることばかりに固執した作戦が目立つケースも考えられます。
観ている側にとっては楽しくないかもしれませんね。
先の「カット打法」のところで高代さんがおっしゃっていた、
「正々堂々とした技術交換の場であるべき」
ということからかけ離れてしまいます。
球数制限の導入は、
「力がある複数人のピッチャーを揃える」
という必要に迫られます。
球数制限の導入が「チーム編成を変える」ということを生み出すかもしれません。
これはメリットともデメリットと取れますよね。
ただ、投手を育てることはカンタンなことではありません。
やはり元々実力があるピッチャーが最初から集まってくる強豪校が有利になるのではないでしょうか。
さて、日本では新潟高野連で導入されることが決定した球数制限ですが、アメリカでは投手の球数制限って明確な規定があるのでしょうか?
調べてみると「ピッチスマート」というアメリカ独自のガイドラインがありました。
MLBのガイドライン「ピッチスマート」とは?

アメリカでも投手の肩や肘の故障が多いことを問題視していました。
そこでMLBは2014年に医師や専門家の意見を基に、投手の球数と休養日に関するガイドライン「ピッチスマート」と発表しました。
ピッチスマートには年齢別に1日の投球数の上限と、1日の投球数に応じた必要休養日が明確に規定されています。
ピッチスマートの内容を下記一覧表にまとめました。
1日の投球数上限
年齢 | 1日の投球数上限 |
7~8 | 50 |
9~10 | 75 |
11~12 | 85 |
13~14 | 95 |
15~16 | 95 |
17~18 | 105 |
必要な休養日数
7~8歳
1日の投球数 | 必要な休養日数 |
20球以内 | 連投可 |
21~35球 | 中1日 |
36~50球 | 中2日 |
9~14歳
1日の投球数 | 必要な休養日数 |
20球以内 | 連投可 |
21~35球 | 中1日 |
36~50球 | 中2日 |
51~65球 | 中3日 |
66球以上 | 中4日 |
15~18歳
1日の投球数 | 必要な休養日数 |
30球以内 | 連投可 |
31~45球 | 中1日 |
46~60球 | 中2日 |
61~75球 | 中3日 |
76球以上 | 中4日 |
アメリカでは年齢に応じて多くの球数を投げれるよう、必要休養日と合わせて細分化しました。
MLBの試合では明確な球数制限はありませんが、先発ピッチャーは100球を目処に交代します。
日本のプロ野球よりも多くのピッチャーが必要とされるのがMLBですが、先発、中継ぎ、抑えといった形でどのチームも分担しています。
日本よりも先にアメリカは少年野球でも球数制限を明確に規定していたんですね。
日本もアメリカを習って、今後さらに細分化した規定ができることが予想されます。
球数制限導入とカット打法まとめ

球数制限導入に伴い、投手に球数を投げさせる作戦は有効だと言えます。
そこでカット打法がクローズアップされることになります。
カット打法については、
- 野手の間を狙って打つカット打法
- ファウルを狙って打つカット打法
どちらも技術が必要なカット打法です。
しかし、カット打法の目的によってポジティブにとらえられるか、ネガティブにとらえられるかが変わってきます。
私なりにNGとすべきカット打法は、次のような言葉で表せるのではないかと考えました。
「投手に球数を投げさせることを目的として、意図的かつ継続的にファウルを打っていると判断した場合」
私は高校野球には「いつでもハツラツとした全力プレー」を求めている人間です。
これに陰りを与えるプレーは観たくない、というのが本音です。
あなたは球数制限とカット打法について、どのようにお考えですか?